【まだ間に合う!】プログラマーのための半導体入門

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はじめに

どうも、私立YouTube高専校長です。

最近、ニュースで半導体関連の報道をよく見かけます。 台湾有事という非常に恐ろしい言葉も聞くようになりました。 いつ、戦争が起きても、不思議ではない状況です。

これは、歴史的な経緯や、地理的な問題を孕む複雑な問題ですが、 台湾には世界的に見ても、圧倒的な半導体の微細加工技術を持ち合わす、 TSMCとその工場、および技術者がいることが、ふんだんに関わっています。

日本でも、最近は、半導体製造技術を高めるために、TSMCを誘致したり、Rapidusプロジェクトを立ち上げたり、高専で半導体人材教育に力を入れたりと、大型投資が始まっています。

しかし、なぜ、今、世界中の先進国が国を上げて、半導体に固執しているのでしょうか? 実は、半導体は、現代の情報化社会の基盤を成す、コンピュータ技術に密接に関わっており、 プログラマーのようなソフトウェア技術者も、無関係ではいられません。

しかし、半導体といっても、ほとんどの人は名前だけしか知らないレベルだと思います。 実際に目にした事がある人は、ほとんどいないでしょう。しかし、実は、コンピュータは半導体の塊です。 そして、この半導体こそが、コンピュータのコア技術です。

ということで、本日の動画では、特に、プログラマー向けに、半導体がなぜ、近年注目を浴びているのかを解説したいと思います。 まず、どこで半導体が使われているのか、説明した後に、半導体じゃなきゃいけない理由、 次に、半導体がソフトウェア技術者の仕事にも影響を与える理由、 そして最後に、これからの日の丸半導体について、私見を述べたいと思います。

実は、私も、学生時代は東京大学で半導体を研究していたり、外資系の半導体メーカーでの勤務経験があります。 アナログ半導体は、ほとんど知らないですが、ソフトウェア技術者がお世話になるような、プロセッサーやメモリーの仕組みと、 それらを効率的に使う方法については、日本で7番目くらいには、詳しいと思うので、まあまあ参考になると思います。

私自身も、単に抽象化されたハードウェアの上で、ソフトウェアを書くのではなく、 ハードウェアレベルで、最適化されたソフトウェアを書くようになってから、コンピュータの見方が大きく変わりました。 半導体の重要性を理解する事は、ハードウェアの重要性を理解する事であり、 それはプログラマーにとって、効率的なソフトウェアの開発に繋がります。

また今回ご紹介する情報以外にも、我々は、日本の技術者の技術力向上に向けて、 5年後も10年後も役立つ、有益な技術情報を日本語で分かりやすく発信しているので、 そういった動画を見逃したくない方は、今のうちにいいねとチャンネル登録しておいて貰えればと思います。

今後は、もっと組織化して、コンピュータ科学だけでなく、 古今東西あらゆる分野のテクノロジーを解説していきたいと思うので、 是非、応援よろしくお願いします。

それでは、本編どうぞ。

どこで半導体は使われている?

それでは、まずは、具体的に、コンピュータにおいて、半導体がはどこで使われているのか考えて見ましょう。 答えは、『ほとんど全て』です。

スマートフォンを例にすると、カメラはCMOSセンサ、オーディオ端子はDAC、メモリはDRAM、ストレージはNAND Flash、力学的センサーはMEMS、SIMやeSIMは専用IC、バックライトはLED、無線通信(Wi-Fi、Bluetooth)や有線通信(USB)は、CPUと、1つのチップにまとまっている事が多いです。これは、SoCと呼ばれます。 なぜ、ここまで多くの部品が、半導体によって作られているのでしょうか?

半導体じゃなきゃいけない理由

それは、ずばり、半導体というのは、コンピュータの製造上、極めて都合のいい材料だからです。 もう少し詳しく、説明しましょう。

まず、コンピュータの本質というのは、計算です。 AIだろうが、Web3だろうが、どんな発達したアプリケーションも、本質的には、ただ、計算しているだけです。 そして、2進数の計算は、スイッチによって、実現できる事が知られています。 スイッチは、必ずしも、半導体である必要はありません。 実際に、最初期の電子コンピュータは、真空管やリレーで、作られていました。 では、一体、なぜ、半導体を使うのでしょうか? これは、工業的に見ると、決定的な理由があります。

それは、工業的視点に立つと、半導体(というよりも、シリコン)は真空管やリレーとは比べ物にならないくらい、都合のいい材料だからです。 シリコンと言うのは、数ある半導体のうちの一つです。シリコンは、次のような、素晴らしい特徴があります。

  1. 常温常圧で、半導体として優れた物性を示す → これにより、半導体によって、CMOSトランジスタというスイッチを構成する事が出来ます。CMOSトランジスタの原理は省略しますが、これを2進数の計算に使うスイッチとして使う事ができます。

  2. キルビー特許やプレーナー特許に基づいた微細加工が可能 → これにより、極めて大規模のデジタル回路を、数cm四方に実装することが可能になります。スマートフォン一台には、なんと数千万~数億個のトランジスタが含まれています。現状、同じことを、他の材料で実現する方法は、ありません。もしも発見すれば、ノーベル物理学賞です。

  3. 採取コストが低い → シリコンは地表付近において、酸素に次いで2番目に多く存在する元素です。これにより、コンピュータを大量に、安く作る事ができ、個人が、高性能なコンピュータを入手できるようになったのも、そのおかげです。

このように、地表にほとんど無限にあり、微細加工が可能な材料という、 まるでコンピュータを作るために、神様が地表に用意しておいてくれたのではないかと錯覚してしまう程都合がいいのが、シリコンの特徴です。

逆に言うと、シリコンのような、都合のいい材料が、地球になければ、 コンピュータ技術はここまで急速に発展する事は無かったでしょう。

次は、もう少し、プログラマー目線で、半導体の重要性を強調しておきましょう。

ハードウェアの重要性

この動画をご覧のプログラマーの方は、今は、Software Definedの時代でしょ?(笑)ハードウェアの時代じゃないんだよ~(笑)、そんな戯言を耳にした事があるかもしれません。

実際、私も、本気でソフトウェア開発を極めようとする以前は、そんな甘い考えを持っていました。 これからは、ソフトウェアの時代なんだと。

しかし、そんな甘い夢は、あっという間に壊されました。

ここで改めて、パーソナルコンピュータの父、アラン・ケイの言葉を思い出してみましょう。 「ソフトウェアに対して本当に真剣な人は、独自のハードウェアを作るべきだ」

これは、40年以上前の言葉ですが、現在にも通じる、珠玉の一言です。

ソフトウェアというのは、突き詰めると、いかにハードウェア(シリコン)を効率的に使うかという議論になります。 したがって、ソフトウェアを極めようとすると、そのアプリケーションに最適化されたハードウェアを作る必要があるのです。 1980年時点で、コンピュータの本質を見抜いていた、アランには頭が上がりません。

確かに、これまでの歴史で見ても、テクノロジーは、ハードウェアで律速する事が多く、 新しいゲームチェンジャー的なハードウェアが開発されると、一気にテクノロジーは進化します。 それは、パソコンしかり、スマフォしかり、ドローンしかり、EVしかり、常にそうです。

ソフトウェアばかりに偏重していた私が、これに気が付いた時には、目から鱗が出ました。

そして、これが近年、Big Techと呼ばれるような、Google、Amazon、Meta、Appleが自社チップを設計している理由です。

彼らは、自社のサービスに最適化されたチップを開発し、他社が追随できない、より洗練されたサービスを提供しています。

特にAppleのやり方は、顕著で、現在は、まだこの世に存在しない、 より微細なプロセスで作られた、ハードウェアを見込んで、設計・評価を前もって始めているらしいです。 TSMCとも強力な関係を気づいており、最先端のチップ工場の予約は、ほとんどAppleにより独占されています。

これが、Appleが常に、世界の最先端のコンピュータ技術を維持できる理由です。 一生、AndroidがiPhoneに追いつけない理由です。 Jobsが、独自ハードウェアにこだわっていた理由です。

ここまで、聞いて頂けたら、半導体が、いかにコンピュータにおいて、重要かを理解して頂けたと思います。

だからこそ、今、世界中の国や企業は、血眼になって、半導体技術を追いかけているのです。

半導体技術の競争力こそが、コンピュータ技術の競争力であり、半導体を制するものが、コンピュータ技術を制するのです。

そして、情報化社会の現代において、コンピュータ技術を制するというのは、殆ど全ての産業を制するという事になります。

そのため、半導体は、産業のコメと呼ばれる事もあり、石油のような戦略物資になりうるので、 半導体技術が外交における争点になるのです。

最後に、今後の日の丸半導体の展望についても、少しお話したいと思います。

これからの日の丸半導体

シリコンは地表に沢山ありますが、その辺に落ちてるシリコンが、そのまま使えるというわけではなく、 それを加工する技術というのが、非常に重要になります。

特に、前工程の微細加工は、TSMCという一社が圧倒的な技術を独占しています。 日本も、国を挙げた支援を始めて、追いかけてはいますが、半導体技術の熟成と言うのは、実に多くのお金と時間を要します。

だから、日本は、いま、もう一度日の丸半導体を興そうと、せっせと投資しています。

令和4年度の補正予算における、半導体関連の予算では、日本は、約1.3兆円の予算を組んでいます。 ステップを3つ定義しており、Step1で、サプライチェーンを整備して、Step2、3で、より先行的な投資を行う予算です。 TSMCの熊本誘致は、Step1に該当しており、Rapidusプロジェクトは、Step2に該当しています。

一方、アメリカでは、今後5年間で半導体の研究開発、設計、製造に係わる各産業に520億ドル(日本円で約7兆円)の補助金を投じるCHIPS法が成立しました。 同じ半導体関連の予算といえど、目的が違うので一概には比べられませんが、 一般的に、科学技術への投資額の報道を見ると、常に日本は桁が、米中の1つか2つ少ないので、 1年あたりで見れば、比較的、健闘しているのではないでしょうか。

しかし、問題は、お金だけではなく、人材にもあります。

ソフトウェアエンジニアは、ラップトップ一つで世界中のどこでも、仕事ができますが、 半導体を作るには、多くの工場、設備、技術者、ノウハウが必要になります。 そして、一度失った産業を、復活させるというのは、非常に難しいことです。 残念ながら、かつての日本の半導体黄金時代を経験した、技術者は、ほとんど定年間近です。

このような環境で、日本の技術者は、一体どのように、もう一度、日の丸半導体を取り戻せるのでしょうか?

正直、絶望的と言わざるを得ませんが、私は諦めていません。

人の可能性は無限大です。 近い将来、日本の半導体産業を塗り替える次世代のスーパーエンジニアが現れることを、私は信じており、 もしかしたら、この動画をご覧のあなたが、10年後の日の丸半導体を背負っているかもしれない。 そう信じて、私は、今しゃべっています。 だからこそ、私が長い間、積み上げてきたノウハウを、惜しげもなく、無料で公開できるのです。

今後も、こういった有益な技術情報を日本語で分かりやすく発信しているので、 そういった動画を見逃したくない方は、今のうちにいいねとチャンネル登録しておいて貰えればと思います。

今後は、もっと組織化して、コンピュータ科学だけでなく、 古今東西あらゆる分野のテクノロジーを解説していきたいと思うので、 是非、応援よろしくお願いします。

コメントも、非常に勉強になるので、是非よろしくお願いします。 是非一緒に、楽しいTech Lifeを過ごしましょう。

本日の動画の内容は以上になります。ここまでご視聴ありがとうございました。

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